
パンドラの箱に秘められた「希望」 2011/5月
米子医療センター 院長 浜副隆一
3・11に発生した東北関東大震災が世界史に残るほどの大惨事を抱えた中で、平成23年度の幕が開きました。被災された多くの方々に心よりお見舞い申し上げますとともに、犠牲になられた方々に深く哀悼の意を申し上げます。発生からすでに5週間を経ましたが、判明する犠牲者の数は今なお増え続け、さらに、福島原子力発電所からの放射線漏れが被災地の復興を大幅に遅らせていることに、心を痛めています。被災地における災害救援活動には、国立病院機構からも医師、看護師、薬剤師、医療技術者、事務の方々が、様々な形で参加し支援を行ってきましたが、被災地があまりにも広範囲に及び、短期間で交代する医療支援チームでは十分な効果を期待するのは難しい状況です。さらに、町全体が消滅するなど被害の総量が極めて大きいために、16万人にも及ぶ避難民が帰る家もなく、避難所で長期の生活を余儀なくされており、健康への負担が危惧されます。壊滅地域の復興に時間がかかるとすれば、安全な地域に一時的に移住することもひとつの策であり、米子医療センターでは旧看護学校宿舎に60名の避難民の受入準備を整えたところです。 東北大震災の復興に要する費用は20兆円とも30兆円とも言われ、抜本的な歳出の縮減と長期的視野で税収増を図り、新たな財源を創出する必要があります。財政再建に関しての取り組みをみると、1985年にJR、NTT、JAL、JTの民営化、さらに2004年にはNEXCO、JPなどの民営化、そして国立病院など多くの組織が独立行政法人化(独法化)されました。その目的は、組織の経営効率化によって国が交付する運営費をできる限り少なくし、国民負担を軽減させることにあります。昔から「国・公立病院」は税金で運営される組織と言われてきましたが、公立病院には今なお経常収益の1/4の運営費が交付されているのに対して、国立病院機構の診療には運営費が交付されなくなりました。このことが独法化の目的ですから、国の財政再建策としては成功事例と考えられますが、今後、財政危機が深刻さを増す状況にあっては公立病院への交付金の減額は必定であり、公立か民営かに拘らず、診療報酬を収入基盤とした病院運営が求められて来るものと思われます。
さて、閣議決定で規制された「国家公務員の人件費5%削減」は国立病院機構にも適用され、職員の皆様には多大なご苦労をかけていますが、職員の皆様の努力で今年度も大幅な黒字を計上することができ、その結果、年度末ボーナスを支給することができました。職員の努力に報いて還元できたことを大変嬉しく思います。自立・自活を目的とする独立行政法人では、民間企業と同様に、得られた利益の中から建物や医療機器の償還をしていかなければなりませんので、各部門の連携を実のあるものとし、病院全体で生産性をさらに高める努力が必要ではないかと考えます。
米子医療センターは第2期中期計画の3年目に入りました。最大の目標である「病院の建て替え整備」に関しては、基本設計を終え、8階建ての新病院を建設することが正式に決まりました。1年後には第1期工事に着工し、そして3年後の新病院完成に向けて、地域医療ネットワークの中核となり得る病院を創ろうと議論を重ねています。この流れを踏まえて、今年度は「地域を支える病院創り」というテーマを病院目標に掲げ、以下に掲げる4項目、1)患者さんに優しい対応、2)EBMに基づく安全な医療、3)職種間連携による業務の効率化、4)持続可能な安定経営、を行動目標としました。今年の干支は、「寅」から「兎」になりました。中国では「寅年は動く」と言われ、物事が動き出す状態を指し、「卯年は茂る」と言われ、物事が盛んになることを意味するとされています。米子医療センターは、昨年は「寅」にあやかり、病院整備構想が動き出しました。そして今年は、「兎は茂る」のように、新病院の基本構想が図面の上で形になろうとしています。
最後に、ギリシャ神話に出てくるパンドーラーは、世界中のあらゆる災いが詰め込められたとされる「パンドラの箱」を開けてしまいましたが、箱の中に最後まで残されたのは「希望」だったと伝えられています。壊滅的ダメージからの再生には長期間を要すると思われますが、人間には最後の最後まで「希望」が残されており、日本が惨禍から立派に立ち直ることを信じたいと思います。
米子医療センターにおいても、今年度もいろんな問題が起こるかも知れませんが、職員みんなが「希望」を胸に力を合わせれば、必ずや道は開かれると思います。ご協力・ご支援をよろしくお願い申し上げます。